本小節では、CDS の価格付けについて紹介する。CDS の価格付けとは、単純にいえば、あるプロテクションの購入者が、定期的にプロテクションの売り手に支払うプレミアムを決めることである。CDS
の価格付けには、デリバティブの評価でよく用いられる
リスク中立確率測度を用いた方法が適用される。本小節では、簡単な例を挙げてCDS の価格付けの方法について説明する。今、満期

で、

にプレミアム

の支払いが生じ、デフォルトが発生したら

円をCDS の購入者に支払うCDS を考えるものとする。ここで

は、デフォルト時における参照資産の
回収率である。簡単のため回収率δは、ランダムではない変数とする。一般にデフォルトが起きた場合、プロテクションの購入者は、参照資産をプロテクションの売り手に譲渡することになる。時刻

をデフォルト時刻とする。後に説明するが
デフォルト時刻
は確率変数である。つまりデフォルトの発生は、確定的な現象ではなく、ランダムな現象であると捉える。上述で説明したように、CDSプロテクションの購入者は、デフォルトが起きなければ、満期までプレミアム

を支払い、デフォルトが起きればデフォルト時刻τ までプレミアムc の支払う。逆にCDS プロテクションの販売者は、参照資産にデフォルトが発生した場合、

円をCDS プロテクションの購入者に支払う。プロテクションの購入者と売却者の双方に不利がない公正な価格を決める必要がある。つまり、将来に発生する双方の支払いを現在価値に直したものがそれぞれ一致するようにプレミアムの価格を決める必要がある。ここで時刻

における割引率(discount rate) を

で表すものとする。割引率は、安全資産(長期の国債など、安全性の高い長期の債権のこと。) による運用手段によって将来の時刻に発生する利回りを、現在価値に割り引いたものとして、1
年あたりの割合(パーセント) で表したものである。CDS プロテクションの購入者及び販売者の支払いについて、それぞれ上述の記号を用いて記述すると以下のようになる。
まずCDS プロテクションの購入者に将来発生する支払いの現在価値は、次のようになる:

一方、CDS プロテクションの発行者の将来発生する支払いの現在価値は次のようになる.:

よって公平なプレミアム

とは、

となる

を求めることである。すなわち

が求めたいプレミアムである。今、数学的な問題を分かり易くするために、
割引率を確定的な割引率

と仮定する。このとき,CDS の公平なプレミアムc は、

となる。上記の式を見るとわかるようにリスク中立確率測度におけるデフォルト確率

と回収率

を決めれば、プレミアム

が決まる。上述の例では、簡単に説明するために回収率

と割引率

がランダムでないと仮定したが、これらの
ランダム性が与える影響を無視できないこともある。クレジット・デリバティブの価格付けを行うには、デフォルト確率を求めと回収率のモデリングをし、評価する必要があることがわかる。上述の例では、特に我々は、デフォルト確率のシミュレーションの興味がある。